〇走査型電子顕微鏡関連技術
どのようにして画像が見えるのか
走査電顕もまた電子を用いて画像を作りますが、透過型電顕のように試料を透過した電子は通常用いず、試料表面から飛び出してきた電子を検出します。電子線を細く絞り 試料を走査し、各々の点でどれだけ電子がでてきたか、それを検出器で測定してその強弱を画像のコントラストにします。どんな電子が出るかと言うと、いろいろ種類があるようですが、 二次電子と反射電子との2種類のみに注目します。二次電子は入射した電子との相互作用の結果試料側から放出される電子です。これは試料の厚さ数nm以内から出てきます。 エネルギーが低いのが特徴です。この二次電子は試料を構成する原子の種類にはあまり依存せず、試料の傾斜角度に強く依存するので、試料の凹凸、表面形状に関する情報を教えてくれ ます。一方、反射電子は試料のより深いところから発生し、入射電子が反射することからエネルギーが高く、その反射の効率は試料表面への入射角度と試料の組成(平均原子番号) に依存します。純粋に表面形状のみの情報を得るのには二次電子の方が適切で、反射電子は試料の組成の情報も得られる利点があるということになります。また、反射電子はエネルギー が高いことから検出しやすく、水分のある試料を低真空下において表面形状を観察すると言う、二次電子を利用した方法では不可能な観察が可能です。とにかく、絞った電子線を試料に 当て、そこから出る電子の量を検出器で捉えて明暗のコントラストにします。そして一般的にそのコントラストは試料の表面形状に依存するので表面形状をよく反映する画像が見える ことになります。透過電顕のような切片作製を必要とせず、生物に限らず多くの工業的試料の表面形状観察にも適しています。倍率はどれだけ電子線を絞ったかで決まります。 分解能は透過型電顕程はありませんが、数十nmの構造を見るくらいの分解能は有しています。
試料作成法
一般的な生物試料の場合、やはり高真空中に試料を入れるため、脱水、乾燥を行います。その時に構造が壊れるのを防ぐため、透過型電顕の試料と同様に固定を行います。 試料の表面形状を見るのが目的ですので、樹脂包埋等はせず、脱水の後乾燥をさせます。この時、表面張力で試料の表面が変形した状態で乾燥してしまい、生きていたときとかなり異なる 表面形状になってしまう可能性があるので、極力表面張力による構造の変形が起らない乾燥の方法が工夫されています。代表的なものは2酸化炭素を用いた臨界点乾燥法です。 2酸化炭素は比較的達成しやすい温度、圧力で臨界点に達します。詳しくは理解しておりませんが、臨界点では物質は液体でも気体でもないということで、液体としての表面張力 がかかりません。試料をチャンバーに入れ、液体の2酸化炭素を導き、さらに臨界点に達するようにします。その状態でチャンバーから2酸化炭素を抜いていき、乾燥まで持っていきます。 そのままでも観察は不可能ではないのですが、一般に生体試料は導電性が低く、帯電しやすい細い突起等が多いので、電子線を当てると試料がどんどん帯電して本来の表面構造の情報 が隠れてしまいがちです。そのため、試料に金属をコーティングすることで、2次電子の放出も助け、また試料の導電性をよくして帯電を無くすことが試みられます。
顕微鏡操作と画像記録
もともと、試料上で電子線を走査し、画像をモニター上に表すと方法をとっているため、走査電顕の画像は初めから数値情報ですので、デジタルファイルにしても質的な 劣化はありません。また、顕微鏡の走査も比較的易しいと思います。低倍率であれば観察も画像の撮影もあまり苦労しないことが多いようです。もっとも、大変よい画像を取得するため には透過型電顕同様高い技術がいるようです。私たちはそれほど走査電顕を使いこなすことはできていません。