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現在のプロジェクト
​1.αカテニンの張力感受性と多細胞形態形成における意義

研究内容で述べた細胞間接着装置AJにはアクチン繊維が結合していることが知られています。

アクチン繊維はミオシン繊維と相互作用して、モータータンパクミオシンIIの力を伝え、 その結果、AJは細胞の内側から引っ張られることになります。AJには細胞接着分子カドヘリンがあり、細胞の外では隣接する細胞のカドヘリンと結合するため、AJを介して 細胞内の収縮力が隣接する細胞に伝わります。

それぞれの細胞でそのようなことが起こるので、一般に上皮細胞シートの中では隣り合う細胞はAJを介して引っ張りあっています。 その明確な理由は明らかになっていませんが、私たちは、上皮細胞シートの維持そのものに重要であると考えています。強い力がかかって上皮シートが折れ曲がり、神経管等を作る場合 はもちろん、AJによる力の適切な伝達が必要です(図1)。

 

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​図1

また、上皮シート内の細胞が死んで、上皮のバリア機能が落ちた場合には、細胞はすばやく、死細胞を除去するとともに その場所を隣接する細胞が異動することによって塞ぎます。

このときも、極性のある上皮の場合は、AJを介して引っ張りあうことで (死細胞と生細胞の間では引っ張り合いは当然 起こらず、死細胞に面している生細胞の間で引っ張り合いが強くなるということがわかっている)、損傷修復が起こるのです。

このような場合、AJがその増加した収縮力に耐えられずに壊れてしまい、細胞が解離してしまっては全体の形態形成に繋がりません。

また、それぞれの細胞の収縮力が完全に同一であるとは考えられず、多少の差がある場合、強い細胞が収縮し、 周囲の細胞が引っ張られて伸びてしまうようでも、全体の形態形成に繋がりません。多少の差があっても、一人勝ちを起こさせないような、仕組みがあると好都合です。

 

 私たちはAJ内の主要なアクチン結合タンパクの一つビンキュリンがAJに力がかかる時は集積し、力がかからなくなると解離することを見いだしました(Miyake et al. 2006)

強い力で引っ張られた時にはそれに対抗できるようにアクチン結合タンパクの量を増やして、より多くのアクチン繊維がAJに結合できるようにするという仕組みがあるかのようです。

力が働かなくなるとビンキュリンは離れ、結合するアクチン繊維の量は減ると考えられます。収縮力の高い細胞が、隣接する細胞を引っ張りすぎて、AJが壊れる等した場合は、 もう隣接する細胞が力を支えてくれないので、力がかからないことになり、ビンキュリンも離れ、細胞内の収縮力がAJに伝わらなくなります。

これは一人勝ちしそうな細胞が、 力を緩めて、隣接する細胞が引っ張り返すのを待つということだと考えられ、とてもうまくできたフィードバックの機構があるかのようです。

 

 それは本当か、どのような仕組みなのか、それがわかって本当の理解になります。ビンキュリンがAJにやってくるのは、カドヘリンと複合体を作っているタンパクの一つ α-カテニンが結合相手だからであることがすでにわかっていました。

そこで、α-カテニン分子に力の程度を感知して、ビンキュリンに結合したりしなくなったりする仕組みがある のでは?と考えました。

いろいろと実験をしたところ、図2のように、α-カテニンにはビンキュリンに結合する領域に隣接して、その結合を邪魔する 阻害領域があることがわかりました。その阻害が解けるのは、α-カテニンが引っ張られたときなのです。すなわちα-カテニンは張力感受性を持つAJタンパクで、その性質を使って AJにも張力感受性(力がかかるとビンキュリンがやってきて強化する)生まれているわけです(Yonemura et al., 2010)
 

 現在、進行中なのは、

それではα-カテニンのどこがどうなって阻害ということが起こり、どうなってそれが解除されるのか分子レベルで理解すること、

 

また、 都合の良い仕組みだと考えてきていますが、本当にどのくらい重要なのかを、特に上皮細胞の形態形成を例に検証したいということです。

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​図2

上皮細胞は二次元培養に限らず 三次元培養も行い、正常なα-カテニンを発現する細胞と、張力感受性が異常なα-カテニンの変異体のみを発現する細胞での違いを見いだしてきています。

構造生物学の専門家や数理科学の専門家と協力して理解を深め、将来的には張力感受性が形態形成に対して重要である場合を見極め、形態形成を操る技術の一つへ繋げたいと思います。 一方、張力感受性がそれほど重要でない場面では何が重要であるのかという新しいテーマがあぶり出されてくると思われます。

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